往年のビッグ・ネーム・バンドが再結成してはツアーで稼ぐ、というのが大はやりですね。チケット代はどんどん高くなって今や2万円前後が当たり前になってしまっていますが、それでも動員は、中高年の音楽ファンを中心に好調のようです。
どうしてなんでしょうね?
たいていのヴィンテージ・アーティストはもう還暦も越えて、お腹もたるんで、動きも鈍くなったおじさん&おばさんたち。ミックやポールはたしかに元気だけど、やはり20代の頃の輝きにはもう比べるべくもありません。なのに東京ドームを何日もやれるほどたくさんの人が足を運び、その人たち自身も鈍った身体に鞭打って、総立ちして、盛り上がっています。
もちろん悪いことではありません。私だって、ポールもストーンズも行きました。さすがにボーカリストが代わってしまったクイーンやジャーニーやイエスは行く気がしないですが。でもそういうバンドも大枚はたいて観に行く人たちはえらいなーと思っています。
でも、思うのです。だったらもっとレコード音源(広い意味で録音音源という意味で)もだいじにしようよと。
レコード音源は、老いたミュージシャンたちもいちばん輝いていたころに、そのエネルギーを全開にして作り上げたものです。さらにそこにはプロデューサーやエンジニアの才能やエネルギーも合体しています。今の彼らには絶対再現できない音の結晶みたいなものがLPやCDには刻みこまれており、それは再生装置があればいつでも再現可能なのです。
いや、「いつでも再現可能」だから有難みを感じないのかもしれませんね。片やライブは一期一会。このアーティストのこの瞬間を共有しておかないと、と思う心理。これもわかります。
しかし、「いつでも可能」なのは、パソコンの小さなスピーカーやiPhoneから圧縮音源をイヤホンで聴く、あるいはせいぜい家のミニコンポでCDを、隣の部屋や家を気にしながら、控えめな音量で聴くことくらいではないでしょうか?
レコード音源は、いいオーディオ環境で、耳だけでなく身体に音圧を感じながら聴きますと、ものすごく魅力的なホントの姿を見せてくれます。まぁ「いいオーディオ環境」ってどういうものなのかスパッと定義できないところはクセモノだったりするのですが、ともかく、レコード音源をいい音でそして大きな音で、自宅で聴ける人なんてほんの一握り、外へ行ってもそんな場所、なかなかありません。ロック・バーと呼ばれる店はあちこちにありますが、たいていは音量が小さいですね。昔のロック喫茶やジャズ喫茶と呼ばれた場所は爆音でしたけど、今はそういう店は流行らないのでしょう。
つまり、一期一会のライブも貴重でしょうが、レコード音源をちゃんと聴くことができる機会というものは、実はそれ以上に貴重なものかもしれないのです。
私が『いい音爆音アワー』と題して、いい音楽を、いい音&爆音で聴く会を始めたのは、そんな考えがあってのことです。
2010年12月から、下北沢の音楽カフェ「風知空知(ふーちーくーちー)」(2020年より「ニュー風知空知」)で月に一度、「ナイスなイントロ」、「ナイスなグルーヴ」、「ナイスな邦題」などから「ドラマー特集」、「ベーシスト特集」、あるいは「ギター・ソロ特集」、そして「雨の歌特集」、「色と音楽」、「数と音楽」、また「2拍3連特集」などなど、何らかのテーマに沿って、ロック&ポップス中心に古今東西の名曲・名音源を選曲し、簡単な解説をはさみながら、聴いていただいております。
毎月やっていますから既に130回を越えました。また、銀座近くの新富町、「on and on」というスペースでは、アナログ・レコード限定の『いい音爆音★AA会』というのを2015年12月から始めまして、現在<シーズン 2>であります。
残念なのは、このイベントにいらっしゃる人が少ないことです。2万円も使って、2時間以上も立ちっぱなしで、おじいちゃんたちのライブを観にいく人が何万人もいるのに、入場無料の『いい音爆音アワー』には20人くらいしかいらっしゃいません。
グチのように聞こえるかもしれませんが、そうではなく、「レコード・コンサート」の貴重さ、おもしろさに気づいてない人が多いのではないかと懸念するのです。私自身がいい音楽をいい音&爆音で聴くことに無上の喜びを感じておりますので、このイベントはお客さんが少なくても、誰もいなくても(笑)、やっていこうと思っていますが、この喜びを共有できる人が少ないことは、やはりどうにも残念なのであります。
もう一度要点を整理してみます。
①ヴィンテージ・アーティストのライブ=一期一会(◯)、入場料高い(☓)、パフォーマンス衰えてる(☓)
②ヴィンテージ・アーティストのレコード・コンサート=実は貴重(◯)、入場料安い(◯)、最高のパフォーマンスが蘇る(◯)
どちらを選ぶということではありません。ただ、②はいい事づくめなんだというところに気づいていただければ幸いであります。
レコード音源には、まだ貴方の知らない魅力がいっぱい隠れています。
福岡智彦 [いい音研究所]
2023年4月3日更新(変化情報のみ)
音なんかよくなくたって、音楽のよさはわかるよ。
スマホだってPCだって、小さなラジオだって、いい音楽はいい音楽。
たしかに。
でも、それでは分からない「よさ」も音楽にはあるのでは?
今やたいていの曲は、いつでもどこでも、タダあるいはタダ同然で、簡単に聴くことができる。
いい時代だ。
昔だったら、家でステレオセットに向かわないと、聴きたい音楽を聴けなかった。
レコードをジャケットから取り出し、プレーヤーにセット、慎重に針を落とす。
ステレオセットの正面で、スピーカー眺めながら聴くしかなかった。
めんどうな。
そう、今でもアナログをちゃんと聴こうと思ったら、そういう、昔ながらのめんどうな作業をしないといけない。お金もかかる。
でも、そうすることで聴こえてくるものがある。
クリエイターの思い。
少しでもいい歌あるいはプレイを、少しでもいい音で録音しようという、ミュージシャン、プロデューサー、アレンジャー、エンジニアたちの努力、あるいは気合、時に奇跡。
そして、クリエイターの思いを伝えるための道具=楽器、録音機器、また再生機器、わずか1メートルのケーブルの質によって大きく変わることもある「音響」という不思議な世界にそそがれてきた職人たちの情熱。
いい音&爆音でクリエイターの思いにまで耳を傾けたら、その音楽がどうして生まれてきたのかを考えてみる。
人が作っている以上、人の生き様が影響をおよぼす。人はひとりで生きてはいないから、いろんな人との人間関係、生活環境、そして世の中、政治、時代が絡んでくる。
音楽の背後に流れるそうした背景を知ることで、理解できることがある。
音楽がより一層面白くなってくる。
先人たちが残した数々の名作を、ただ漫然と聞き流すだけではなんとももったいない。
いい音
爆音
背景
この3つを提供できる場と時間を、私は作りたい。
福岡智彦(いい音研究所)